第3回:社員アンケートの結果を改善の順番につなげる
「純効果度」と「データドリブンISM法」:インタビューを受けて

2026.10.20

 

社員アンケートの結果はそろった。仕事内容、人間関係、給与、休暇。それぞれの満足度は分かったものの、どこから改善すればよいのか決められない。株式会社データムの舘野真一社長が向き合うのは、こうした分析と意思決定の間に残る課題だ。項目ごとの割合を示すだけで終わらず、その背後にある関係を整理して、施策の優先順位を考える材料にする。そのために取り組んでいるのが、純効果度とISM法を組み合わせた階層構造マップである。

 

満足度の順位から項目同士の関係へ

インタビューで舘野社長が紹介したのは、仕事に関する満足度を尋ねた自主調査だ。公開資料ではサンプル数2,000人とされ、インターネット上で、仕事内容や職場の人間関係、勤務時間、休暇日数など八つの項目について、当てはまるものを複数回答で選んでもらった。

この集計を見れば、どの項目で満足している人が多いかは分かる。しかし、回答割合の高い順、低い順に並べるだけで、改善の順番まで決まるわけではない。一つの項目が、ほかの満足度と結びついている可能性があるためだ。

舘野社長は、割合だけの集計を、ある時点の状態を示す情報として捉えている。知りたいのは、その状態を踏まえて次にどう動くか。そこを考えるため、八つの項目を組み合わせ、関係を一つずつ見直していく。

 

 

両方向の数値を比べて関係を整理する

そこで用いるのが、舘野社長の提唱する「純効果度」だ。二つの項目について、一方を条件、もう一方を結果として計算し、さらにその配置を入れ替える。両方向の数値を比べることで、どちらを起点に関係を考えるか、その手がかりを得ようとする。

紹介された事例では、仕事内容満足から職場の人間関係満足を見た値が34.0%、逆向きが36.0%だった。このように全項目を総当たりで比較し、その差を整理している。

次の段階では、一方向の値から逆向きの値を引いた差が10ポイント以上になる関係を「1」とする表を作成した。これは今回の事例で採用した基準であり、あらゆる調査に共通する絶対的な基準ではない。また、この計算だけで因果関係や実際の時間的な順序が証明されるわけでもない。関係の向きを検討するための指標として使う、という位置づけが重要になる。

この表には、ほかの項目へ向かう関係の数と、ほかから受ける関係の数も整理されている。仕事内容満足の場合、前者は六つ、後者はゼロだった。単独の満足度が何%かを見るときとは異なる役割が、ここから見えてくる。ただし、それは設定した基準を満たす関係を数えた結果であり、現実の影響がないと断定する数字ではない。

 

階層構造マップで改善の仮説を共有する

こうして作った関係の表を、ISM法によって階層的なマップへ整理する。数字の一覧では追いにくかった項目間のつながりが、図として見渡せるようになる。

今回のマップでは、仕事内容と職場の人間関係の満足度が、ほかの項目に関係を及ぼす側に位置づけられた。そこから勤務時間、休暇日数へと関係がつながり、職場の方針、学習機会、賃金・給与、世間からの評価の満足度は、関係を受ける側として整理されている。

ここで注意したいのは、図の上にある項目ほど重要、という意味ではないことだ。舘野社長は「形成後期」の層を、ほかの項目から関係を受けて形成される側として説明している。これは調査データと分析上の設定から組み立てた見方であり、社員の意識が必ず図の順番で変化すると確認されたものではない。

それでも、項目をばらばらに扱う場合とは、話し合いの焦点が変わる。仕事内容や人間関係を土台と考えた場合、別の施策との組み合わせはどうすべきか。図は、こうした改善の仮説を共有するための材料になる。

経営会議でも、「数値が低いから改善する」という話から、「ほかの項目とのつながりを踏まえると、どこが着手候補になるか」という問いへ進められる。マップを介して論点をそろえることが、施策を選ぶ前の共通理解につながる。

 

自社の条件を重ねて優先順位を決める

ただし、このマップをそのまますべての会社に当てはめることはできない。紹介されたのは特定企業の社員調査ではなく、手法のイメージを伝えるための自主調査である。会社ごとのデータで分析すれば、別の項目が起点になる可能性もあると舘野社長は話す。

さらに、分析上は優先したい項目でも、すぐに変えられるとは限らない。投じられる費用も、人員も、職場の事情も違う。仕事内容を直ちに変えるのが難しければ、勤務時間や休暇の運用に着手できないか。そのように、自社が動かせる条件を重ねて考える必要がある。

「そこは人が判断するしかないんですよね」。マップは結論を自動で指定する道具ではない。関係の見取り図を共有し、どこに働きかけるかを具体的に議論するための道具なのである。

 

データドリブンISM法に込めた意図

舘野社長は、このアプローチを「データドリブンISM法」と呼んでいる。階層に整理するISM法そのものは既存の手法であり、新たに発明したという意味ではない。関係の設定を、有識者の意見だけに頼るのではなく、できるだけデータに基づいて行う。その意図を名称に込めたという。

自身が触れてきた実務では、有識者の意見を参考に関係を設定する方法があった。そこに判断の偏りが入り込む可能性を感じ、もとになる関係行列をデータから組み立てる道を考えた。数式だけを示すのではなく、意思決定を支える図にすることに価値を見いだしたのである。

アンケートの数字を眺めて終わらず、関係を整理し、自社が実行する一手を選ぶ。そして、その後の変化を確かめる。データを経営に生かすために必要なのは、分析結果を意思決定へつなぐ、この具体的な対話なのだ。