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第4回:結果から逆算して、「次の一手」を選ぶ
if Y逆算法と意思決定デザイン3W1P:インタビューを受けて2026.10.20
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アンケートを集め、グラフを作り、詳しい報告書も完成した。それでも会議の最後には、『結局、何をすればいいのか』という問いが残る。株式会社データムの舘野真一社長は、この行き詰まりを分析の出発点から捉え直している。提唱するのは『if Y逆算法』。望ましい結果を先に定め、その結果に近い人たちは何が違うのかを調べる考え方だ。データを読み解く前に、人が目指す方向を言葉にする。そこから意思決定につながる分析が始まる。
分析の前に望ましい結果を定める
たとえば、フィットネスクラブで会員の継続を考えるとする。設備、利用するプログラム、入会時に重視したこと。関係しそうな項目はいくつもある。最初から一つずつ『これが継続につながるのではないか』と考えると、調べる対象が増えるほど、分析の組み合わせも増えていく。
舘野氏が紹介したフィットネスクラブの分析では、『2年以上続くかどうか』という目的が置かれていた。ここで先に決めるのは、どの設備が重要かという答えではない。何を望ましい結果として扱うか、という基準である。その結果をYと呼び、Yに当てはまる人と、当てはまらない人の違いを見ていく。『継続している人は何が違うのか』と問いを立てれば、分析の焦点が定まる。
ただし、2年という基準をそのまま別の事業に当てはめるわけではない。自分たちが目指す状態を定義すること自体が、分析に入る前の重要な判断になる。数字を集める作業より先に、事業として何を実現したいのかを共有する必要があるのだ。
同じ会員データでも、新規入会の増加を目指す場合と、長期継続を目指す場合では、比較するグループも注目する特徴も変わる。実務では、目標の対象と期間、どの状態を達成とみなすかを、分析する人と依頼する人でそろえておきたい。Yを明確にすることは、計算の条件を整えるだけでなく、分析後に何を議論するのかを共有することにもつながる。

望む結果を持つ人から特徴(必然性のある構造)を探す
『もしYだったら、Xはどう変わるか』。舘野氏は、if Y逆算法という名称に、この問いを込めたと話す。Yは目指す結果、Xはその結果と関係するかもしれない項目である。先に候補を一つに絞るのではなく、Yとそれ以外の二つのグループ(対象=ペアフィギュアズ)を作り、アンケートの各回答を横断して比較する。
インタビューで説明された進め方は、YとNot Yに分けて全問のクロス集計を行い、違いの大きさや検定の結果を確かめるというものだ。そこで現れた差を、有望な要因候補を探す手掛かりにする。継続している人が何をよく利用し、入会時に何を重視していたのか。こうした違いを同じ達成基準で比べれば、次に詳しく調べる項目が整理しやすくなる。対象の本質は、対象(YとNot Y)の「あいだ」に現れるからだ。通常、対象=目当てと解釈され、Yのみが意識されがちであるが、対象の本質を可視化するなら、 YとNot Yは“2つで1つ”として捉えた方が分かり易い(二宮尊徳の「一円観」に基づく)。
ここで得られるのは、あくまで要因の候補だ。継続者にある特徴が多かったとしても、それを増やせば継続率が上がると確定するわけではない。比較で見つかった特徴を、現場の状況と照らし合わせ、具体的な検討へつなげる。その位置付けを理解することが、この発想を活かす前提になる。

候補が多い現場から生まれた逆算の発想
この方法の起点には、実務で扱う項目の多さがあった。舘野氏によれば、自治体のアンケートでは、設問と選択肢を細かく見ていくと、要因候補が1,000を超えるような場合もあるという。関係しそうな項目を一つずつ取り上げて検討するだけでは、時間が足りなくなる。より効率よく候補を抽出するにはどうすればよいか。その問題意識から、結果の側から各項目を見直す方法を考えた。
『仮説を立てる』といわれても、最初の仮説をどこに置けばよいか分からない。そうした場面でも、まずは『こうなりたい』というYなら定義できる。出発点を共有したうえで比較を進めれば、議論も目的から離れにくい。舘野氏が重視する効率性は、単に計算を速くすることだけではなく、調べる目的を明確にするところにもある。
人が「目標」と「次の一手」を決める
if Y逆算法は、舘野氏が語る『意思決定デザイン3W1P』の出発点でもある。『なぜ、Yをテーマ (仮説)に設定するのか』、つまり目指す結果Yを定めた後に、『誰に対して』『何が要因候補なのか』『どれを優先するか』を考える。インタビューでは、それぞれWhy、Whom、What、Priorityという言葉で説明された。
この流れでは、人が最初と最後に登場する。最初に行うのは、どんな未来を望むかを決めること。途中の集計や比較は、システムやAIが担うこともできる。そして最後に、示された材料から『次の一手』を選ぶ。どの施策なら実行できるかという事情も含め、優先順位を決めるのは人である。
実務では、見つかった項目をそのまま施策名に置き換えず、自社が変えられる条件かどうかも考えたい。例えば、立地や設備のように短期では動かしにくい条件と、サービスの案内や運用のように見直しやすい条件では、検討の仕方が違う。データが示す関係を、予算や人員、実行までの期間と照らし合わせれば、候補を具体的な行動へ絞り込みやすくなる。
数字が答えを自動的に決めてくれるのを待つのではなく、人が決めるために数字を使う。その役割分担が明確になれば、分析報告書は会議の終着点から、具体的な意思決定の材料へと変わっていく。

分析結果から検証する問いへ進む
舘野氏は、紹介した分析について、代理店を介する仕事が多く、施策実施後の最終的な成果までは直接把握していないとも話した。フィットネスクラブの例も、継続率の改善幅を示す成功事例としてではなく、目的を定めて要因を探す分析の例として捉える必要がある。
そのうえで、このインタビューが示す実務上の問いは明確だ。分析を依頼する前に、『自分たちはどうなりたいのか』を言葉にできているか。集計を終えた後に、その違いから何を検討し、何を確かめるのかを話し合えているか。望ましい結果から逆算する発想は、データと現場の対話を始める入口になる。