第5回:チラシと購買の関係を読み直す
純効果度が示唆する「因果の兆し」:インタビューを受けて

2026.10.20

 

広告を見た人が商品を買った。その結果だけで、広告の効果を判断してよいのだろうか。株式会社データムの舘野真一社長は、同じ二つの出来事にも異なる経緯があることに着目した。独自の指標「純効果度」を手掛かりに、数字の背後にある関係を考え、次に確かめる問いへつなげる発想を紹介する。

 

同じ購買行動にも異なる経緯がある

広告を見た人が商品を購入した。この結果を見れば、広告に効果があったと考えたくなる。しかし、購入した人の全員が、広告によって買う気になったとは限らない。もともと買う予定だった人や、商品を購入した後に自分の選択の正しさを確かめるため、広告やカタログを見た人もいるかもしれない。

舘野社長が着目したのは、このような経緯の違いだった。「広告を見た」「商品を買った」という二つの事実がそろっていても、その関係をどう読むかによって、次に検討する施策は変わる。購入のきっかけをつくる広告を増やすのか。すでに購入を考えている人へ判断材料を届けるのか。回答の割合を確認するだけでは、この違いを捉えにくい。

現場で起きていることを、もう一段深く理解したい。その問題意識から、舘野社長は二つの項目の関係を、異なる向きから比べる方法を考えた。

 

純効果度は一つの条件の寄与を考える指標

インタビューでは、チラシを見たか、見ていないか。目玉商品を買ったか、買っていないか。この二つの質問を組み合わせた四つの区分が紹介された。純効果度は、こうしたクロス集計から計算する、舘野社長が独自に考案した指標である。一般的な統計学の標準指標とは区別して理解する必要がある。

計算の出発点は、チラシを見ていない人にも購入者がいる、という事実だ。その購入率を、チラシを見た人の集団にも当てはめる。チラシを見た購入者数から、チラシを見なくても購入したと見込む人数を差し引き、購入者全体に対する割合を求める。チラシ以外の影響も考慮しながら、条件の寄与を捉えようとする発想だ。

ここには、二つの集団が、チラシ以外の要因について同じような影響を受けているだろう、という前提がある。ただし、同じ時点で集めたデータでも、購買意欲や顧客属性まで等しいとは限らない。計算の意図と前提を押さえることが、この指標を実務で読むための第一歩になる。

 

同じ表を入れ替えると異なる値が現れる

次に舘野社長が試したのは、クロス集計表の行と列を入れ替えることだった。「チラシの認知から購買を見る」配置と、「購買からチラシの認知を見る」配置で、同じ指標を計算する。使う回答データは同じでも、条件として置くものと結果として置くものが変わる。

紹介された事例では、チラシ認知から購買を見た純効果度が11.74%、逆向きでは8.27%となった。一般的な相関係数は二つの変数を入れ替えても同じ値になるが、純効果度では、計算の方向によって異なる値が出る。この非対称性に、舘野社長は関係を読み直す手掛かりを見いだした。

二つの値を並べると、どのような関係を想定して調査すべきかという議論が生まれる。一方、その大小だけで、チラシの閲覧が時間的に先だったことや、購入を引き起こしたことが確定するわけではない。比較によって仮説を具体的にし、次の確認につなげる点に、この試みの位置付けがある。

 

因果の兆しを追加の調査につなげる

舘野社長が説明の中で繰り返したのは、因果関係を証明するものではない、という点だった。そこで用いている表現が「因果の兆し」である。二つの出来事に、方向のある関係があるかもしれない。その可能性を考えるための手掛かりとして、指標を扱っている。

例えば、もともと商品への関心が強い人ほど、広告を読み、購入もしていた可能性がある。別の出来事が、広告の閲覧と購入の両方に関わる場合も考えられる。表を入れ替えて値が変わる性質だけでは、そうした背景を取り除くことはできない。

そのため、実務では「実際にどの順番で行動したのか」「比較する集団の背景に違いはないか」と確かめることが大切になる。広告の閲覧時期を聞き分ける、購入前の情報収集と購入後の確認を分けて把握する、といった追加調査も検討できる。こうした確認は、指標から得た仮説を、現場で検証できる問いへ変えるための作業だ。

 

関係を整理して、「次の一手」を選ぶ

経営の現場には、広告、研修、職場環境など、成果に関係していそうな要素が数多くある。何を見直すかを決めるには、関係の強さを確かめることに加え、どのようなつながりを想定するのかを言葉にする必要がある。

純効果度を両方向から計算する試みは、そのための一つの入口だ。分析を担当する側と施策を選ぶ側が、どんな前提で数値を読み、何が確認できていて、何をさらに調べるのかを共有する。数字を施策に結びつける際には、この対話が欠かせない。

調査を依頼する企業にとっても、「広告を見た人は多かったか」と「広告が購入の判断にどう関わったか」を分けて尋ねることが役立つ。何を知りたいのかを具体的にすれば、集計結果の受け止め方と、次に必要な質問が明確になる。

インタビューは、二つの事象の比較から、複数の項目を整理する「階層構造マップ」の話へ続く。個別の数字を出して終わらず、関係を整理し、人が次の一手を選ぶ。舘野社長は、その一連の流れの中に純効果度を位置付けている。